乙女の焼とん今宵塩味で
しいな キミはきっと可愛い子に違いない
その日の夜、9時すぎに電話をかけてきたのはしいなちゃん。
「店がつぶれそうなんです。デリヘル嬢って、雇用保険貰えるんですか?
少々東北なまりの入った可愛い声の29歳。ホームページを見てかけてきたとは言うものの、いったいどのようなキーワードを入れたら僕のページが引っかかるのか。デリヘル嬢+失業+雇用保険?
で、回答。加入していれば貰える可能性はあるが、もちろん未加入なので不可。するとしいなちゃん、おそらく自分でも色々と調べたのだろう。
「さかのぼって払えるって聞いたんですけど」
なるほど、なんとしてでも欲しい様子。店は有限会社とのこと。送迎ドライバーを時給で兼ねていたこともあるので、しいなちゃん自身は雇用保険の対象となる可能性はある話。
しかし、肝心の店が雇用保険適用事業所として手続をしていなければ、あるいはこれからするにせよ、店(会社)が手続をしなければやはり不可。しいなちゃん、個人で手続できると思ったようだが、それはできないと話すと少々落胆気味。
が、まだまだ自分で調べてきたネタは持っていた。
「倒産の場合、多く貰えるって聞いたんですけど」
「学校行ったり、勉強すれば手当が出るって聞いたんですけど」
などなど。はたまた、
「自分でデリヘル始めたら、助成金貰えますか?」
確かに教育訓練給付制度もあるし、職業訓練を受ければ受給期間も延長される。また、最後の質問は受給資格者創業支援助成金のことだろう。しかし、いずれも雇用保険への加入が前提であり、ましてや受給資格者創業支援助成金については算定基礎期間が5年以上なければ対象外。
「何かないですかねぇ、助成金貰えるのって?」
ここまでくると、もはや憎めない。僕自身、思わず苦笑しながら会話を続けていた。あれやこれやと15分ほど話したかな。やがて、
「長々と聞いてもらってどうもありがとうございました」
と、しいなちゃん。実はけっこう礼儀正しい。またしいなちゃんが電話をかけてくることをひそかに望んでいる僕。今度は労災の話か、それとも社会保険か。ノンキといえばノンキな女の子。されどガンバレ、明日はきっといい天気!
成功するか失敗するか、なんなら俺が判断してやるよ。けっこう当たるよ。俺は立派な失敗者だけどね。おかけで今、人生で最も赤貧な日々が続いてらぁ。けど、不思議と危機感なんて類のものが欠如してるんだよね。これって、ヤバイのか、それとも間違っちゃいない証拠なのか。それさえ、どうでもいいことに思えてしまう。大事なことは、常に今の今、一体俺は何を語れるか。そればっかり考えてらぁ。
勝負しようとしていないヤツは応援しない。迷っているのなら、やめたほうがいい、やらないほうがいい。金儲けに勝負は不要? うん、そうかもしれない。
だったらなおさら、俺の手助けなんていらないだろ。俺の出番もありゃしない。